「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第118話

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最終章 強さなんて意味ないよ編
<ヨアキムへの依頼>



 壮行会後の立食パーティーが終了してロクシーさんを玄関までお見送りした後、私とシャイナは執務室に引っ込んで寛いでいた。

 これが私たち主催のパーティーなら他の来賓の人たちも見送らなければいけないのだろうけど、今回の主催はあくまでフランセン伯爵でありバハルス帝国軍なのだから、それを強調する為にも目立つ私たちは遠慮したと言う訳だ。

 それで私たちが執務室に入ってから1時間半ほど経った頃。

 コンコンコンコン。

 ノックの音の後、この大使館に配属されているメイドの一人が部屋に入ってきて一礼した。

「アルフィン様、ライスター様、ヨアキム様の両名がお見えになりました」

「あら、意外と早かったのね」

 私たちが居た第2会場は地位が高い人たちばかりだったので、そこにいる人たちが帰らなければ他の会場の人たちは帰ることができない。
 そしてその第2会場内でも一番最初にこの大使館を去ったのはロクシーさんだから、彼らがここに姿を見せたと言う事はたった1時間半ですべての人が帰ったと言う事だ。

 正直言って結構な人数がいたから私はこの倍は時間が掛かると思っていたんだけど、これだけ短時間で退館が完了するなんて流石は軍人さん、団体行動はお手の物って事なんだろうね。

「アルフィン」

 おっと、ぼ〜としている場合じゃなかったわね。

「うん、解ってるわ。マス・キュア・ポイズン」

 私は範囲化した解毒の魔法で、自分たちがパーティーで飲んだお酒を消し去った。
 ちょっともったいない気もするけど、これから色々と話さなければいけないのにお酒の匂いをさせたままだとしまらないもの。

「これでよしっと。いいわ、お通しして」

「畏まりました」

 メイドはそう言ってから一礼して退室。

「此方でございます」

「ありがとう。失礼いたします」

「失礼いたします」

 そして3分程後に、二人を連れて戻って来た。

 パーティーから時間が経っているとは言え今日はすでに顔を合わせているのだから、私は挨拶を省いていきなり思っていたことを口にする。

「皆様、思ったよりも早くお帰りになられたのですね」

「はい。来賓の方々がお帰りになられた後は部隊毎に一度纏まって、第1部隊から順に撤収いたしましたから」

「あら、軍人さんはこんな場でも部隊で行動するのですね」

 軍人だから団体行動はお手の物だろうなんて考えてはいたけど、まさか部隊での行動までしているとは思わなかったわ。
 でもまぁ今日はかなりの人数が参加していたから、その方が混乱が無くていいと言うことなのかもしれないわね。

「なるほどねぇ。部隊と言えばティッカ君は一緒じゃないの?」

「壮行会の運営とは関係ないですし、彼は今回が初めての出征ですから家族も心配でしょう。出発するまでは少しでも一緒にいたいと思うでしょうから、うちの隊の者と一緒に帰らせました。」

 シャイナの問い掛けにライスターさんはそう答えた。
 確かに戦争に行くと言うのは、野盗を退治に行ったり街道を警備したりするのとは全然違うから、いくら安全な後方の補給部隊と言っても家族が心配するのは当然よね。

「特に彼は我が部隊では数少ない冒険者上がりではない隊員ですから、普段の作戦行動中も後方支援が中心で戦闘に参加する事はほとんどありません。ですから、後方とは言え戦場に行くというだけで緊張状態にあると思うんですよ。しかし、そんな状況でずっと居ては精神が参ってしまいますからね。家族と一緒に居ることで、少しでもリラックスできればと」

 こう語るのはヨアキムさん。
 この人はこういう気の使い方ができる人だから、私も後方の補給部隊の分隊長と言う役割は適任だと思うわ。
 そんな事を思いながら、その心遣いに感心していると。

「後方支援中心の隊員だからと自分の分隊の副官に引っ張ったんだから、ヨアキムがナーバスになりかけている彼を気にするのは当然なんですけどね」

 と、ライスターさんがあっさり内情をばらしてくれた。
 なるほど、そんな事情もあったのか。
 確かに自分が戦いになれていない若者を戦場に連れ出したのなら、気を配るのは当然よね。
 感心して損したわ。

 まぁこの話はもういいや、本題に入ろう。

「ヨアキムさん、今回は後方での補給がお仕事だとお聞きしましたが、あなたの分隊が行動するのは戦場から遠く離れた場所なのですか?」

「いえ、それ程遠く離れてしまっては前線に物資が足りなくなった時に対処できません。ですから戦闘が始まってからは戦場となるカッツェ平野にある砦か、その前に作られている人工の丘の上のように、前線からの合図が確認しやすい場所で待機する事になると思います」

 へぇ、毎年戦争すると言うだけあって砦まであるのか、なんか私が想像していた戦争とは少し違うなぁ。
 なんとなく何もない平原で両軍がぶつかり合うようなイメージだったんだけど、そんな前線基地みたいなものまであるんだね。
 でも、ある程度高い場所から見下ろさないと大軍の指揮なんてできないだろうし、高台や、それが無ければ砦を作ってそこから司令部が戦場を全体を見るなんていうのは当たり前か。

「なるほど。ならヨアキムさんは後方の戦場の状況がある程度解るような場所に配置されるのですね。それならば丁度良かったわ」

「丁度よかった、と申されますと?」

 なんとなく勢いでそう口が滑ってしまったけど、どうやって切り出そうかと迷ってもいたから結果オーライか。
 今更取り繕っても仕方がないから、私からのお願い事をヨアキムさんに伝えることにする。

「実は今回の戦争の事で、ひとつ気になっている事があるのです。それは何故今回に限り、これ程大規模な動因がなされているのかと言う事。このイーノックカウから毎年行われている戦争に兵が送られるのは、これが初めてなのでしょう?」

「ええ。ですがそれに関しては、新たに創設された辺境候と言う貴族位に叙爵されたアインズ・ウール・ゴウン様を歓迎する為と聞き及んでおります」

「それは知っています。しかし私が集めた情報では、そのゴウン様の事をよくご存知な方が誰一人いないのです。ロクシー様ですらご存じなかったのですよ。これは少しおかしくはないですか?」

 私にそう言われて、ライスターさんもヨアキムさんも難しそうな顔になる。
 この表情からすると、この情報はライスターさんたちも知らなかったのかもしれないわね。

 ならば好都合、これなら私の考えを理解してもらえれば余計なことを話さなくても協力してくれるかもしれないわ。

「私が得た情報で解ったのは、ゴウン様は偉大な魔法使いであり、皇帝エル=ニクス陛下がご自身の友であると評していることのみです。では陛下は何時ゴウン様と知り合われたのでしょうか? これはロクシー様が知らないのですからきっと疎開でこのイーノックカウに移られた後でしょうね。そしてゴウン様が叙爵されたのは皇帝陛下がこのイーノックカウに訪れた直前です。こんな短期間で陛下と知り合い、友人になった上に侯爵をも上回る辺境候と言う地位にお着きになられたゴウン様と言う方は、どのような魔法使いなのでしょうね」

「アルフィン様、あなたは皇帝陛下が辺境候に操られていると?」

「そんな事はありえません。陛下は精神支配を防ぐマジックアイテムを常に身につけておいでですから、たとえフールーダ様であってもそのような事はできないでしょうし、フールーダ様ができない事ならば他の誰にもできないと言う事ですから」

 ライスターさんの疑問をヨアキムさんが、すかさず否定した。

 へぇ、そんなマジックアイテムを身につけてたんだ。
 なるほど、前にカロッサさんたちが言っていた陛下が持っている国宝級のマジックアイテムってこれの事なのね。
 まぁ、そんなものを持っていてもこの世界で作られたものなら”あの”アインズ・ウール・ゴウン所属の魔法使いならどうにかしそうだけど、それを言うとややこしくなるから話をあわせて、他の可能性に話を持っていくとしよう。

「そうなのですか。ならば操られているという事はないのでしょう。では何故この様な事が起こり得たのか。私はこう思うのです。ゴウン様が想像を絶するほどの力を持ったマジックキャスターなのではないかと」

「アルフィン様が想像を絶するとお考えになっているという事は、アインズ・ウール・ゴウン辺境候はもしやアルフィン様の国があるという大陸の者?」

 おっと、ちょっと突っ込みすぎたみたいね。
 少しブレーキを踏まないと私の正体にまで話が行きそうだから、ここは否定して話の方向を修正しないと。

「いえ私の国周辺では、そのような名前のマジックキャスターの話を聞いた事がありません。偽名を名乗っているというのなら話は別ですかが、これが本名ならバハルス帝国のような大国の中枢にすんなり入り込めるほどの力を持ったマジックキャスターの名前ですから、城にいる誰かしらが噂くらいは聞いた事があるはずでしょう?」

「なるほど、アルフィン様でもご存じないと言う事は大陸中央から流れてきた者なのかもしれません。あなた様の母国周辺のように、我々が知らない場所に強力な力を持った者がいたのかもしれませんから」

 中央かぁ、確かに私が知らないだけで、この世界にはもっと強い人がいてもおかしくないのかもね。

 それはともかく、とりあえず話の修正は成功したかな? じゃあ、本題に入るとしますか。

「そうかも知れませんね。ただ、ゴウン様は今のところバハルス帝国と友好的な立場にいるようですが、もしもの時の備えとして何かが起こった時すぐに対処できるよう情報だけは集めておいた方がいいと私は考えています。ですからヨアキムさん、どんな事でもいいですから、ゴウン様の陣を出来得る限り観察し、その情報を私に伝えて欲しいのです」

 これが私がやってほしいと思っていたことなんだ。

 始めは出兵する部隊に隠密性の高いモンスターかNPCをこっそり紛れ込まそうかとも思ったんだけど、アインズ・ウール・ゴウン程のギルドがうちと同様本拠地ごと転移してきているとしたら絶対に監視者を放っているはずだから、断念したのよね。
 でも情報だけはどうしても欲しかったから、帰って来た兵士からなんとか話だけでも聞けないかロクシー様に頼もうと思っていたんだけど、ヨアキムさんが参加するというのなら直接頼んだほうがいいと私は考えた訳だ。

「解りました。どれほどの情報を持ち帰ることができるか解りませんが、私のできる範囲でしっかりと観察してきますよ」

「そういう事ならヨアキムは適任だ。こいつは冒険者時代は盗賊の技能を駆使して働いていたし、今でもその技を使って我が部隊で斥候をまかされているくらいだから、情報集めとその分析はお手の物だろう」

「まぁ、そうなのですか?」

 これはびっくり、本当に適任じゃないの。
 まさかこんな都合よく斥候の技術を持っている人を送り込めるなんて想像もしてなかったから、これは嬉しい誤算だわ。

「なるほど、ならばヨアキムさんには絶対に無事に帰ってきてもらわないといけないわね」

「ねぇアルフィン、予定以外のものも支援物資として色々渡した方がいいんじゃない?」

 私としては選別としてハイポーション等の薬を渡すつもりだったけど、確かにこれは色々と渡しておいたほうがいいのかも。

「そうね。ライスターさん、ヨアキムさん。少し席をはずしますね。シャイナ、その間、二人の御相手をお願い」

 私はそう言うと一旦退室、そして隣の部屋に入って自分のアイテムボックスの中を眺めた。

 とりあえず精神汚染無効は必須よね、アインズ・ウール・ゴウンは異形種ギルドなんだから兵士としてモンスターやアンデッドを連れてきそうだし、無いとは思うけどもしバンシーのような精神攻撃をするモンスターに巻き込まれたら大変だもの。
 あと一応、即死攻撃対策に身代わり札もいるよねぇ・・・あっ、時間対策! ってこれは逆に持たせちゃダメか、プレイヤーと思われたらヨアキムさん、殺されちゃうよ。

 麻痺はまぁ後方支援だから、もしなったとしても死ぬ事はないだろうけど毒対策は必要よね。
 後は流れ弾防止用にキャリークロウラーの糸を使った鎧下を作って渡せばいいかな? う〜ん、後は何が必要だろう。

 私は裁縫技術を使って布装備を作りながら思案を続け、考え付くものを一通りそろえてから執務室に戻った。
 そして。

「ねぇアルフィン、出征時はヨアキムさん自身の荷物も持っていかないといけないのよ。それなのに追加で大型のリュックでも背負わせるつもり?」

「はははっ、流石に多すぎたかな?」

 その量の多さにあきれたシャイナから、こんな言葉を頂いてしまった。
 そうだね、ヨアキムさんはアイテムボックスを持っていないんだから普通に持ち運べる程度にすべきでした。

 そう指摘され、ワゴンに積まれたマジックアイテムたちを見ながらつい苦笑してしまうアルフィンだった。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 シャイナはあきれているだけですが、ライスターたちはワゴンに山のように積まれたマジックアイテムを見て絶句してます。
 そのせいで、ヨアキムは特に重要なもの以外、碌な説明も聞かずに渡されたアイテムを身につけて戦争に向かう事になるのですが、 まぁ効果なんて知らなくても発動はするから何の問題も無いんですけどね。

 因みに持っていったのはアダマンタイト並みの防御力を持つ鎧下、精神汚染無効の指輪、即死魔法用身代わり札、毒無効のペンダント、そして別の効果があると偽って渡された普通に死んだ時にイングウェンザーに死体が転移される指輪だったりします。
 ただ、そんな事はないからいいですけど、もしこのアイテムで戻る様な事があったらヨアキムは一生イングウェンザー城から出られなくなるでしょうねw


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